ご本殿
境内
手水舎
斎館
神楽殿
戎神社
石灯籠(県指定文化財)
千石船奉納絵馬(県指定文化財)
千石船雛形(県指定文化財)
「紀伊国名所図会」より |
当社は、皇祖 天照皇大神をおまつりし、元伊勢の伝承をもつ神社です。古くより、商売繁盛、交通安全の守護神として崇敬されており、主祭神、相殿神を総称して伊勢部柿本大神としておまつりしています。
境内には、末社として若宮八幡宮、妙見神社、金毘羅神社、秋葉神社、住吉神社、山王神社、戎神社をおまつりしています。特に戎神社の十日戎は多くの参拝者で賑わいます。
元伊勢とは、伊勢の神宮が今の地(三重県伊勢市)に鎮座する前、皇祖 天照大御神の御霊代である八咫鏡をおまつりするのにふさわしい処を求めて、天皇の皇女が天照大御神の御杖代となって各地を巡幸し、一時的におまつりされた由緒のある土地や神社のことです。
伊勢神宮の鎮座伝承を記した『倭姫命世記』によると、第10代崇神天皇の御代、皇女 豊鍬入姫尊が 八咫鏡を奉じて大和の笠縫邑(奈良県櫻井市付近)を出発し、丹波の国(現在の京都府北部、天橋立付近)に巡幸され、吉佐宮に4年、再び大和の伊豆加志本宮に8年、次に紀伊国奈久佐濱宮(和歌山市毛見 濱宮神社付近)に3年間御鏡をおまつりしましたが、その後「吉備国名方濱宮」というところに遷り、4年間御鏡をまつったと伝えられております。その吉備国名方濱宮とは、すなわち、この海南市日方にあった藺引ノ森であると古くから言い伝えられています。4年が経ち、八咫鏡は再び豊鍬入姫尊が奉じて倭の弥和乃御室嶺上宮というところに遷りました。そして垂仁天皇即位二十五年に豊鍬入姫命の意志を継いだ皇女倭姫命が、各地を巡幸した末、伊勢の地に至り伊勢の神宮が鎮座したのです。
一方、藺引ノ森では、豊鍬入姫尊が去った後も、大神宮御鎮座の大宮処として天照大神をおまつりしつづけていましたが、その地は高波や津波の恐れがあることから、いつの頃からか
この日方の東山の中腹、すなわち現在の地に遷座され、従四位伊勢部柿本大神と讃えまつられ、社殿壮麗を極めたと伝えられます。
しかし天正十三年、豊臣秀吉の紀州攻めにより、社殿を焼失してしまい、15年間、仮宮でおまつりする時期がつづきましたが、江戸時代の初めの慶長九年、(1605年)、今から約400年前に近くにあった妙見社と熊野社を遷し、三社殿がこの地に再興され「里神社(さとじんじゃ)」として呼ばれ崇敬されてきました。
天下泰平の世になった江戸時代、日方の町は、戦国の世から次第に息を吹き返し、千石船を使った廻船業が栄えます。当時から日方は物流の拠点、多くの地元特産品や黒江漆器の材料となる紀州材が千石船を使って大量に日方浦に陸揚げされ、ここから大阪や江戸にとどまらず日本海にも運ばれ全国に広まっていったと伝えられております。今から約300年前のことです。
当時の海運業は命がけです。海に浮かぶ船の上から、船乗りたちが故郷の日方浦を望むと、この里神社の山が見に入り、海上の安全、交通安全を願い、心のよりどころとして崇敬したのでしょう。商売に成功し、商業の発達した日方の町に暮らす人たちがこぞって寄進をして、神社は再び繁栄していきました。
この頃寄進された、石灯籠、千石船を描いた絵馬、千石船の雛形(模型)は当時の日方廻船を知る貴重な資料として、県の文化財に指定されています。また、三十六歌仙の絵馬なども残されており、当時の繁栄ぶりをうかがい知ることができます。
それから約100年後の神社の様子を記した絵が、『紀伊国名所図絵』に描かれています。妙見高里神社と紹介され、この里の産土神とだけ記されていますが、そこに描かれている神社の姿は明らかに里神社と妙見社、熊野権現社の三社であり、今のように立派な石段があり、神楽殿等が描かれています。
同じ頃、江戸幕府の命を受け、紀州藩によって「紀伊国続風土記」の編纂がすすめられていました。この編纂にあたり、元伊勢の伝承である「吉備国名方濱宮」についての考証が当時一流の国学者や儒学者によってなされました。吉備国については、国の字は必ずしも一ヶ国の国名だけに使われるのでなく、一地域を指す場合にも使われることから、吉備国は近郷の有田郡吉備郷を指し、古くは日方から有田の地までの大名を吉備と称していたことや、名方とは藺引ノ森近くの地名である名高を指していること、前巡幸地の奈久佐濱宮と祭礼の交流があることなどから、藺引ノ森がまさしく「吉備国名方濱宮」であるとしました。そして、後の世に東の山岡の中腹に祀られたことや『紀伊国神名帳』にある従四位上伊勢部柿本神まさしく当社であることが記されました。
その後、明治時代になり、王政復古の大号令と共に神仏分離に伴う改革が行われ、皇祖神の天照大御神の元大宮処として元伊勢の伝承を持つ当社は、明治二年、伊勢部柿本神社と改称し、近隣の鎮守社を境内社として合祀して、今日に至っています。 |